司法書士は法律の専門家として、登記業務や裁判手続きの代理など、社会に欠かせない重要な役割を担う職業です。国家資格であり、難関試験を突破した人だけがなれる専門職として、信頼性や安定感のあるイメージを持たれがちですが、実際に働いてみると「想像以上に大変だった」「思わぬ苦労が多い」と感じる人も少なくありません。
この記事では、実際に司法書士として働いてみて「これは辛かった」と感じたリアルな体験や、業界に特有の大変さについて紹介します。司法書士を目指している方や、今後のキャリアに悩んでいる方の参考になれば幸いです。
給料が安い
勤務司法書士として働く場合、「難関資格を突破したのに給料が安い」と感じる人が多いのが現実です。
実際に私も勤務していたときは、想像していたよりもずっと給料が低く、生活が厳しいと感じることもありました。
大企業などに就職した方が、収入面では安定していて高待遇だったのでは…と思うこともあります。
そのため「このままでは将来が不安だ」と感じ、悩む人も少なくありません。
この状況を打開する一つの方法が「独立開業」です。
自分で事務所を構え、努力して仕事を増やしていけば、その分収入に直結します。私自身もこの理由で開業を決意しました。
また、すぐに独立が難しい場合は、歩合給やインセンティブ制度のある事務所へ転職するという選択肢もあります。給与体系を見直すことも、収入改善の第一歩です。
スケジュールが過密
司法書士の仕事はスケジュールが過密になりやすく、常に忙しい日々が続きます。
たとえば、決済や本人確認のために外出し、その後に事務所へ戻って書類作成を行うという流れが一般的です。外出先が遠方だったり、移動に時間がかかったりすると、必然的に残業が増えてしまいます。
司法書士の業務は労働集約型であり、業務量が増えれば増えるほど、作業時間も比例して多くなります。しかし、十分な人員が確保できていない職場も多く、業務が個人に集中しがちです。さらに、法律上必ず行わなければならない手続きも多く、効率化が難しい場面もあります。
また、本人確認などでお客様と面会する必要があるため、相手の都合に合わせて休日対応を求められることも少なくありません。その結果、休日出勤が発生し、代休が取れないことやサービス残業が発生することもあります。
このように、時間的な負担が大きい点は、司法書士として働くうえでの大きな課題のひとつです。
移動が多い
司法書士の仕事は、何かと移動が多いのが特徴です。
売主や買主から書類を受け取るために訪問したり、本人確認のために出向いたりと、案件ごとにさまざまな場所へ移動する必要があります。決済の立ち会いや相談者との面談なども、対面での対応が求められる場面が多く、1日のうちに複数の場所を行き来することも珍しくありません。
私自身、もともと出かけるのが好きだったので、開業当初は外出の多さも楽しんでいました。しかし、外出後には大量の書類作成などの事務作業が待っており、体力的にも精神的にも次第に負担を感じるようになりました。
最近では、オンラインで対応できる業務も増えてきていますが、司法書士には法律上「対面」での本人確認が求められるケースが多くあります。また、相談者が高齢でオンラインに対応できない場合も、やはり直接会いに行く必要があります。
こうした業務の性質上、1件ごとの対応にまとまった移動時間がかかり、効率よく動いても拘束時間が長くなることが多くなります。移動そのものが負担に感じてしまう方にとっては、慣れるまではなかなか大変な部分かもしれません。
責任が非常に思い
司法書士の業務では、大きな責任を伴う場面が数多くあります。特に不動産取引においては、高額な資金が動くため、ひとつのミスが大きなトラブルにつながりかねません。
都内などでは、数億円規模の物件の取引に関わることもあります。司法書士が「間違いなく名義変更できました」と確認することで、売買代金の支払いが行われたり、銀行からの融資が実行されたりします。そのため、名義変更や登記に関する手続きの正確さは非常に重要で、その責任はすべて司法書士が負うことになります。
このようなプレッシャーは精神的にも大きな負担となりますが、一方で責任ある立場として信頼を得られるやりがいのある仕事でもあります。ただし、実際にはその責任の重さに見合う報酬が支払われていないと感じる場面も多く、「報酬に対して責任が重すぎる」と考える人も少なくありません。
ミスが許されない
司法書士の仕事は、どの業務においても基本的にミスが許されません。特に不動産の売買に関する登記では、決済金額が非常に大きくなるため、一つの記載ミスや手続きの遅れが深刻な問題に発展することがあります。
また、相続に関する業務でも慎重さが求められます。依頼者の意向や家族関係に配慮しながら、将来の相続手続きが円滑に進むようにサポートする必要があるため、法律面だけでなく人間関係や感情面にも気を配らなければなりません。
こうした業務の性質上、確認不足やうっかりした見落としが後々大きなトラブルにつながることもあり、常に高い集中力と責任感を持って仕事に取り組む必要があります。まさに「ミスが許されない仕事」と言えるでしょう。
依頼を断れないことがある
司法書士は、登記手続きなどの独占業務が認められている国家資格ですが、「受任義務」と呼ばれるルールもあります。これは、正当な理由がない限り、依頼を断ってはならないというものです。
つまり、「この人はちょっと苦手だから」や「なんとなく気が進まない」といった個人的な理由だけでは、依頼を断ることができません。
ただし、例えば業務がすでに手一杯で、引き受けることでかえって依頼者に迷惑をかけてしまうような場合は、「正当な理由」があると判断され、断ることが可能です。依頼を断る際には、その理由が明確で正当であることが求められます。
下請け的な立場になりやすい
司法書士の主要業務である登記手続きは、不動産の売買契約などが成立した後、名義変更などを行う最後のステップにあたります。このため、実際の契約や資金決済が完了した後に出番が来ることが多く、どうしても「業務の流れの一番最後=川下」に位置づけられがちです。
多くの場合、不動産会社や金融機関から「この司法書士に依頼してください」と紹介されるケースが一般的で、司法書士が主導的に関わるというよりは、依頼されて動くという「下請け」のような立場に見られてしまうこともあります。
このような受け身の関係性に偏りすぎると、立場が弱くなり、仕事の主導権を持ちにくくなるという問題が生じます。
そこで、司法書士としての地位や信頼を高めるためには、相続や遺言、家族信託など、より早い段階(川上)から相談を受けるような業務にも積極的に取り組むことが大切です。依頼者から直接相談される関係を築くことで、より専門性を発揮しやすくなり、主体的な仕事の進め方が可能になります。
まとめ
司法書士は専門性が高く、社会的信頼もある魅力的な仕事ですが、その一方で給料の伸び悩みや業務過多、責任の重さ、人間関係の難しさなど、実際に働く中で直面する「辛さ」も多くあります。
特に、受任義務やミスの許されないプレッシャー、休日出勤や移動の多さなど、表には見えにくい苦労が日常的に伴う職業です。
とはいえ、努力次第で業務の幅を広げたり、自分のスタイルで働ける可能性もあるのが司法書士の大きな魅力でもあります。辛さを知ったうえで、それを乗り越える工夫をしながら、自分らしい司法書士像を描いていけると良いでしょう。
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